舞台『黒い虫』
本日で稽古が終わりいよいよ明日劇場に入ります。
認知症になった男性が主人公の物語。
笑顔ばかりの作品ではありませんが、家族や周りの人の愛を感じる美しい物語です。
この作品を演じるために稽古で過ごした1ヶ月ちょっと、決して楽ではありませんでした。
僕には認知症になった祖母がいました。
茨城県に住んでいましたが祖父が亡くなった頃から認知症がはじまり、しばらく経ってから両親と僕の家に同居することになりました。
とにかく海外旅行が大好きで誰とでも友達になってしまう祖母。
どんなことでも笑顔とエネルギーで解決してしまう大好きな存在でした。
そんな祖母が少しずつ認知症が進んでいく姿を見ていること、一緒に過ごすこと。
駅のホームから線路に降りて歩いてしまい駅員さんから電話があったこと。
何もない夜空に花火が見えてしまい、ずっと花火を追いかける祖母に付き添ったこと。
”大好き”という気持ちの裏に少し芽生えてしまう辛さやイライラ。
忘れもしない、あの日。
祖母が求めていたある事をを無視しました。
その時の祖母の姿が今でも頭から離れられず、思い出すと心が締め付けられ「なんであんな事をしてしまったんだ」と後悔し、大声で叫び泣きたくなることがあります。
一度だけ人生をやり直せるとしたら、絶対にその時に戻る。
でも、あの時に戻ってやりなおすことはできない。
そんななか、『黒い虫』の稽古がはじまりました。
毎日そのことを思い出しました。
そしてその後悔と毎日向き合って芝居をしました。
ほとんど夢を見ない僕が見るようになり、寝たら朝まで起きない僕が必ず夜中に起きる。
稽古場で芝居に一歩を踏み出すことに毎回勇気が必要だった。
芝居が上手くいかないことばかりだったけれど、その時の後悔や祖母のことを考えたら落ち込むことも退くことなんて絶対にできない。
『黒い虫』と出会ったのは、なにか理由があるから。
何をしたってあの後悔は薄れることはないし、自分を許ることは絶対にできない。
でもこの作品を全力で挑み、多くの方にお届けすることが、役者として、人として絶対に必要なタイミングだったのだと思う。
表現しきれない多くの感情を抱えて舞台に立ちます。
そして多くの方々にその姿、作品を観てほしいと心から思います。
IN EASY MOTION vol.47
『黒い虫』
消えゆく記憶が増して行く認知症を患った父に
突如 封印していたはずの過去が鮮明に蘇る
デイサービスに訪れる介護福祉士には事故により若い頃の記憶がない
2人の人生が交差した時に見えたものとは・・・
認知症の父を支える家族の愛の物語
《脚本・演出》
伊藤和重
《スケジュール》
2022年11月2日(水)〜8日(火)
《劇場》
下北沢 小劇場B1
《チケット》
前売り5,000円
当日5,500円
高校生以下3,500円
《詳細・ご予約》
こちらのページへお進みください