2005年12月
僕のソルトレイクオリンピックはこの日にようやく幕を閉じ、同時にトリノオリンピックが開幕した。
賢太郎の家の近くの居酒屋へ行った。そして今まで話せなかったことを話した。
ソルトレイクオリンピックを途中棄権というカタチで終わり、その翌シーズンで賢太郎と僕のパートーナー契約は終わった。
それから二人はそれぞれの道へ進み、賢太郎と会うことは殆どなく、たまに電話やメールで近況報告するくらい。
ソルトレイクオリンピックを振り返ることができなかった。
当時言えなかったこと、できなかったことの後悔が僕の心の底で消化不良のままずっと残っていた。
アルコールも手伝ってか、そんな全てを語ることがやっとできた。
賢太郎も当時の気持ちを全て話してくれた。
二人でこの4年を一緒に思い返していた。
やっと僕の中でソルトレイクオリンピックを終えることができた。
本当に嬉しかった。
話題はトリノオリンピックへ。
「ソルトレイクはお互い不安なまま挑んでいた。けど今回は違う。安心して見てくれ、って言える。」
そんな賢太郎の目は透き通っていた。
僕はそんな目をまっすぐ見返すことができた。
2006年2月25日
トリノオリンピック 男子回転
皆川賢太郎 4位
3位との差、0.03秒
悔しい。本当に悔しすぎる。
しかしこれが現実でもある。マスコミでは「わずか0.03秒」って言うけど、アルペンスキーのレースではよくあることだし、その0.03秒を超えることができなかったのが実力だったのだと思う。
1本目を3位で終えての2本目。緊張しないはずがない。
オリンピック前に1度でも優勝をしていたら、このときのレースマネジメントは上手く行ったかもしれない。
こういう状況で、「勝ったことがある」という気持ちは強い。
しかし成績の事を頭から外して、「メダルをとってアルペンスキーをメジャーにしたい」という4年越しの夢。そしてそのチャンスがまた4年後だと考えると0.03秒という時間はあまりにも酷だ。これからまたバンクーバーにむけて4年間辛いトレーニングを乗り越えなくてはいけない。
この夢の為に誰よりも努力をしてきたのは賢太郎だし、だからこそ一番悔しいのも賢太郎だと思う。
しかし今回賢太郎は多くの人にアルペンスキーの魅力を伝え、そしてアルペンスキーファンに希望と誇りを与えたと思う。
実際に深夜にもかかわらず1本目終わった直後や競技終了後、そしてたった今もたくさんの友人・知人からメールがくる。
賢太郎はたくさんの人の心を動かした。
そう思うと嬉しくてしょうがない。
そして昨日、賢太郎と電話で話した。
電話をかけたものの、どう話せば良いか考えてもいなかった。
頭の中がこんがらがってたけど、電話は留守電に。
残念な気分とホッとした気分が混ざった複雑な心境。
そしたら直後賢太郎からコールバック。
賢太郎は選手村で閉会式まで休んでた。
賢:「おぉ、わりいわりい。電話出られなかったわ。」
こ:「うん。。。賢太郎、おつかれさま。悔しいな。」
賢:「だなー。くやしーよ。メダル、とりたかったなー!!80%で滑っちゃったけど90%で滑れば良かったよー。」
賢太郎はとても明るい声だった。
本心なのか、振る舞ってくれているのかは分からなかった。
こ:「だねー。けどね、賢太郎。こっちのマスコミは「わずか0.03秒!」とか言ってるけど、0.03秒なんてアルペンではよくはること。この0.03秒を越えることができるのが本当に強い人だと思う。「たられば」になっちゃうけどやっぱりオリンピック前に1回勝っておきたかったな。」
賢:「うん。そうだね。そのとおりだと思うよ。村主も4位だったよなー。彼女にもメダルとって欲しかったなー。」
こ:「でね、賢太郎!そういえばさ・・・」
・・・ってな感じで、それからはお互いの近況報告とかむちゃくちゃくだらない事とか話した。
20分くらいだったかな。けど、とても短く感じた。
賢太郎は1日に帰国し、2日に志賀高原へ向かって全日本選手権に出場予定だ。しかし、やはり体に疲れが相当溜まっているらしい。
4年前のあの事故を繰り返さないで欲しい。
「本当に無理すんなよ。お願い。」
賢太郎に何度も言って電話を切った。
今年の3月10日、11日に長野の志賀高原でアルペンスキーワールドカップが行われる。
みんなに応援しに行って欲しいけど、結構遠いところなので行けない人テレビなどでチェックしててくださいね。
今のアルペンスキー日本代表の選手層は過去最強です。
トリノオリンピックで一躍有名になった佐々木明。
2本目にスーパーランを魅せた湯浅直樹。
そして皆川賢太郎。
これほど応援しがいのあるシーズンは今までなかった。
地上波で放送されるかは分からないけど応援よろしくね!!
「たった0.03秒」 そして 「0.03秒の壁」
賢太郎は既に4年後のバンクーバーに向かってる。
0.03秒のための1446日間。
また新しい物語がはじまる。