目は生きているか

「目は生きているか」

制作会社に転職した26歳。
まずは現場を知れということでNHKに出向し映画番組のADを担当することになった。

みなさんが頭に浮かぶADのイメージってあると思いますが、それを見事に裏切らず毎日毎日ディレクターの手となり足となりヘトヘトになりながら働いていました。

「この番組が終われば本社に戻れるから」
その言葉を糧にして、早く本社に戻りたい思いながら頑張りようやく終わったと思ったら「次もよろしく」と言い渡される。その繰り返し。当時は気も心も滅入っていた。
だけど上司やディレクターに絶対負けないと思いながら全力で頑張ってきた。

1年半〜2年が経過し現場から離れて念願の本社業務。
綺麗なデスクと充分な睡眠時間を与えられた僕は毎日楽しく仕事をしていた。

それから半年程過ぎたある日。
NHKで働いていたときの上司と飲むことになった。

「田村、今のお前は目が死んでいるぞ。現場にいた頃のあのギラついた目じゃ無くなっている。お前は現場にいた方がよい。」

色々な角度から金槌で殴られたようだった。

また現場に戻されるんじゃないかということ
そして今の僕を上司は見抜いていたこと

これほどの衝撃を受けたのは恐らく自分の中の片隅にある言葉に出来ない感情、そしてそれを言葉にしたらとんでもないことになるんじゃないかと感じ見て見ぬ振りをしていたことを一発で見抜いて言葉にされたからだなと今になって思う。

その時は現場に戻りたくない一心で黙ってやり過ごしたような気がする。
だけど上司の言葉はずっと消えなかった。

「目は生きているか」

あれから11年間、本番に挑む時、壁が立ちはだかった時など事あるごとにその言葉を自分に言い聞かせている。

先日、その上司とそれこそ10年以上ぶりに飲むことになった。

飲みはじめて30分が過ぎた頃。

「そういえば一度だけ田村と飲んで説教したことあるよな」

と、11年前のあのことを話した。

思わず泣きそうになった。
上司はプロデューサー、ディレクターとして何十年もテレビ業界の第一線で戦い続けていて、関わったADなんて何百人では足りないくらいいるはず。
なのに短い期間しか関わっていない僕とのあの一夜を、そして話したことを覚えてくださっていた。

本当に嬉しかった。

今の僕の目は、大学スキー部の4年間、ADをしていた2年間、沢山失敗し、もがきながら先のことなんて考える余裕もなく、目の前の事に全力でぶつかることしか出来なかったあの時期によってできているのだと思う。

人生は全て「知らない」と「はじめて」からはじまる。

成功したことより失敗したこと、得たものより失ったものから学ぶことができる。だから恐れずに具体的に行動して具体的に失敗し続けたい。

そうしているうちは目は生きているはずだから。